ミラノのサン・フランチェスコ・グランデ聖堂の「無原罪懐胎礼拝堂」のために同名の同信会の注文で描かれた祭壇画で、1486年頃に描かれています。
レオナルドの絵のなかでもっとも完成度の高い作品だと言われています。ルイ十二世がミラノで買い取りフランスに運んだ作品です。
ロンドンのナショナル・ギャラリーには同じ主題のもう一枚の絵がありますがこれは1506年以降に完成された弟子デ・プレヂイスとの共作になるものと考えられています。( 相違点はキリストの顔、背景、明暗表現、人物の円光、ヨハネの十字架、天使のポーズ 等 )
<無原罪懐胎>
「 聖母マリアが男女の行為ではなく神の聖霊が宿りイエスを身ごもった」ということはキリスト教ではとても大事な考えです、それではマリアが処女で懐胎したとして、それはただの娘であるマリアに聖霊が宿ったのか,あるいはマリアはもともと神に選ばれた娘で母アンナに彼女が宿った時にはアンナ自身は純潔だったのだろうか、、、、、 もしそうであればエヴァは人間が人類最初の肉体的な交わりで妊娠したという事なので、それではマリアはエヴァの子どもである人間の汚れを最初からまぬがれていなければならないという事になります。
そこでマリアは天地創造の最初から天の娘として存在していたという説があります。これを「無原罪懐胎」説といいフランチェスコ会の教義です。
それに対してマリアは地上の女でイエスを身ごもった時だけ聖霊によって身ごもった処女であるという説があります(ドメニコ会の教義)
この作品には重大な教義が表現されていることが最近わかってきました。レオナルドは私生児で生まれてまもなく母親からひき離され父親のもとで育てられます。父は別の女性と結婚し、彼女はレオナルドをかわいがりますがその継母も早死してしまいます。そのためにレオナルドは母親に固着して生涯母性へのあこがれから抜け出ることができなかったといわれています。生命への継続、またすべての生命の根源である母親というものが彼にとっては神秘的であり謎でした。
レオナルドは洞窟を大地の神秘と考えたと同時に女性の子宮を洞穴、そこには生命の神秘が隠されていると考え大地と女性(母)とを同一視していることを示しています。この作品では聖母を大地の子宮である岩窟の中において神の子の受胎の秘密を語ろうとしています。(受胎告知)
聖母マリアは中央に座り右手で洗礼者ヨハネにふれ左手は受胎告知の時のポーズをしています。腹部は聖なる受胎を示す黄金の衣で強調され大天使ガブリエルは右手でその腹部を指し示しています。そして左手でキリストにふれ顔を観者に向けてキリストとマリア両者への注意を促しています。
洗礼者ヨハネは救世主の到来を予告しキリストは祝福を与えるポーズで誰よりも低い地面に座っています。
神の子であるキリストがなぜ誰よりも低い場所に座っているのでしょうか?
キリスト教の中には七つの美徳と七つの悪徳があって中世を通じて最大の美徳は謙遜ですこの絵の中では一番低い所にキリストを描くことにより最大の謙遜を表しています。キリストの左には謙遜のシンボルであるスミレが描かれています
深く微妙な明暗のコントラストがこの情景の神秘さをより強調しています
宮永 佳子
>>プロフィール
|
|
パリ、ルーヴル
パリ、ルーヴル 部分
ロンドン ナショナルギャラリー
|