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スペイン国境に近い地中海のほとりにコリウール(Collioure)と呼ばれる港町があります。この町は地理的にカタロニア地方に入りスペインとの関係は深いものがあります。20世紀初頭には、フォービスム(野獣派)の画家、マチス、ドランを引きつけた小港です。コリウールはピレネー山脈が海にまで迫って来る所で海水浴や日光浴に最適の砂浜があります。砂浜は教会と要塞と岩礁が海に突き出る形で三分されています。
夏、強烈な太陽を浴びる屋根はピンク系のレンガ色、壁は全体的には軽いベージュですが隣の家と区別する為にオーカー、白、薄いピンク、エンジ等を塗っている家もあります。壁の色を引き立ているのは窓のシャッターで、シャッターはブルー、グリーン、ウルトラマリーンなどで塗られ文字通りフォービスムの絵画世界を醸し出しています。太陽は黄金色の光を放ち、陰を作らせず、人肌を焼き、乾燥した空気は色彩を鮮やかに見せます。時に吹くピレネー下ろしの風はとてもさわやかです。空は透き通るブルー、そこに目を射るような白い雲が湧き立つこともあります。空にも負けず、海も陽光を浴びてブルー、ブルーマリーン、モスグリーンと色彩を変えて行きます。
小港に繋がれているカタロニア型小舟もまた赤、青、黄、緑と色と光の3原色を使って化粧され波間に浮かんでいます(写真1)。遠くに見えている丘には急斜面を利用してブドウ畑があり収穫が終わった晩秋ともなれば畑は赤褐色や茶褐色に変色します。 |
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写真1 |
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このようにコリウールは鮮やかな多彩色の風景を提供して訪れる人達の眼を堪能させてくれます。20世紀初頭に一世を風靡したフォービスム。その巨匠マチスとドランは国境に赴いてまでも絵を描きに来ました。この町を散策すれば巨匠たちの気持ちを実感できます。そのぐらいにコリウールの街角は殆ど全てが絵になっているのです。絵になる町とは文字通りコリウールを置いて他にないかも知れません。 |
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写真2 |
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ところでコリウールには全くユニークなホテルがあります。画家たちが入り浸り宿泊した宿屋です。宿は海辺に近くLes Templiers(レ・タンプリエール)と言います(写真2)。ここのオーナーは昨年亡くなりましたが有名無名の画家たちの絵をコレクションすること数千枚に及びました。ホテルは幸か不幸かミシュランガイドには紹介されていません。しかしコリウールを訪れるならばこのホテル以外に宿泊の価値はないと思われます。何と!ホテル全体が画廊と化しているのです。廊下は勿論のこと階段、踊り場、1階のブラッスリー(写真3)そして部屋の中にまで宿泊した画家たちの本物の絵が掛けられているのです。したがって宿泊すれば、アンチックな家具調度品も合わせてまるで絵の世界の中で暮らしている気になります。Les Templiersは美術館ホテルと言って良いぐらい芸術的・文化的・歴史的な価値を持っていると思います。 |
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写真3 |
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これらの画家たちのお陰で中世時代の面影溢れる狭い通りには画廊、陶器専門店、手芸品、土産屋などの店が並んでいます。それでいてこの町は観光客だけの町ではありません。水曜、日曜日に開かれるマルシェ、海に突き出た教会、ペタンク広場、趣味の釣り舟が浮かび成金ヨットが停泊できない小港などはコリウール市民のための町に成りきっています。訪れる人たちは抵抗なくこの町に溶け込むことができるでしょう。
コリウールはフランスで最も素敵で快適で美しい町かも知れません。残念ながらパリから余りにも遠いので訪れる日本人は殆どいません。しかし、もし訪ねてみたいならば画家たちの足跡を偲ぶ為にさびしい冬と人の多すぎるヴァカンスを除いて訪れることをお勧めします。 |
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パリ ガイド・通訳協会HP文化部 |
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