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■ユトリロ・バラドン美術館(Sannois)見学記



  ユトリロ。モンマルトルが全世界の絵画ファンを魅了した時代の一人。この名前を耳にする度に、その波乱に満ちた人生を聞きかじりする度に、興味をそそられていた。それでいてまともな数の作品をパリで見る機会がありませんでした。そんな時、11月の会報に<ユトリロ美術館への招待>が掲載され飛び付くようにSannois行きの郊外電車に乗っていました。交通の便はSt.Lazare駅から10分、15分おきに出ているErmont-Eaubonne行きでSannoisまで所要時間30分弱、途中車窓からの風景も、セーヌを渡るとArgenteuil、この辺りでC.Monetも描いていたのかと思いながら小旅行気分でした。Sannois 駅は変わりばえのしない郊外の無人駅、出口は片側一ヶ所だけで、そこから真っ直ぐに延びる道を市役所の方へ行くと徒歩6分でユトリロ・バラドン美術館(建物は旧市庁舎)に着きます。隣に近代的なガラス張りの新庁舎があって、それだけだとやっぱり変わりばえのない郊外banlieue、そんなSannoisです。ところが最初の展示室入った瞬間、作品レベルの高さと展示点数の多さに驚くばかり。案内はユトリロ家の相続人を自称するJean Fabris氏で、始めはユトリロの生い立ちや家庭環境、人生、特にアルコールとの葛藤などを中心に長く説明があ.り、一体いつ絵の話になるのだろうと思っていたのですが、ガイドらしくないその朴訥とした語り口から段々と引き込まれて、しまいにはこの人達の悲劇的な人生に、それでいてこれだけの作品(総点数6000点)を残したユトリロの物語に思わず涙が出そうでした。印象的だったのは、第2の展示室に入る際、間口で立ち止まって観るとよいと言われ、ゆっくり観察するように眺めてみると、確かに白色が浮き上がって見えるのです。それが名高い<ユトリロの白>、その期間が<epoque blanche>だと言うのが本当によく分かるのです。その一瞬はとても美しいものでした。技術的には独学で描いたユトリロが石膏粉を黄卵(ノリの役割)で固めて用いていて着色にはそれぞれ色粉を使っています。その白の美しい事!地下1階の展示室には母親のSuzanne Valadonやその夫で20才も若いUter、特にS.Valadonが55歳頃に描いた自画像は最愛の夫を別な女に寝取られてから全てを失った女、それでいてあくまでも生きる力をたたえている女性の強さがあって圧巻。この人がRenoirの<田舎のダンス>と<都会のダンス>のモデルになったあの美しい女性S.Valadonかと思うとその生き方や運命の並みではないドラマ性に打たれる気がします。
  Jean Fabris氏はユトリロ家の相続人(heritier ;法的な意味か象徴的なものか不明)で、ユトリロの亡き後も家族の世話をされ続けた縁でこの美術館設立に関わっています。当人自身がユトリロに取り付かれているような人物で、話に強く引き込まれてしまいました。また、ユトリロ、バラドンに関する本も数冊出版されていて、日本を始め全世界でのユトリロ展開催を担当するエキスパートです。
  今回は私達AGIJ(ガイド協会)の会員のために特別にガイドをして戴きました。深く感謝いたします。この様な見学に参加出来る時、ガイドの仕事についていて本当によかったと思うことしかり。見学を組織していただいた方々に感謝。ありがとう。将来Auber-sur -Oise のゴッホとSannoisのユトリロ・バラドンとを一日で巡るようなツアーを組んでみたくなりました。例えば画家の同交会などを対象にして。

開館時間
火 ---金 10:00 12:00,14:00---18:00
土・日  10:00---18:00
料金;  4.10e  割引料金 3.40e




家野 健治
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