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■フラゴナール香水博物館

  フランスといえば文化の国、その文化の代表の一つに香水がある。最もフランス的なものともいえるかも知れない。香水はどんな歴史を持っているのか?どのようにして作られるのか?そしてどんな容器に入れるのか?そんな疑問に答えてくれるのがフラゴナール香水博物館である。歴史を紐解きながら、フランスの芸術的香りと共に美しい工芸品としての容器を眺め、又自然の恵み豊かな大地、フランスのエッセンスとしての産物、これらを錬金術師が作り上げる過程をパノラマのように見せてくれる。パリでも珍しい美術館である。

  プロヴァンスの土壌と太陽にはぐくまれた植物や花を原料に、昔からの伝統的テクニックを守りながら常に新しい感覚のクリエーションを生み出している、フラゴナール社。このフラゴナールの麗しい伝統ある家族の歴史が始まったのは1926年で、グラース出身の“フランス・ロココの代表画家フラゴナール”の名を取り店名とした。

  1982年に、パリのオペラ座近く1860年のパリの第二帝政時代に、オペラ座を設計した建築家ガルニエの弟子が作った由緒ある建物の中に、香水博物館はオープンした。パリには100以上を数えるミューゼがあるが、その中でも香りの文化遺産を展示するフラゴナール博物館は、大変にユニークなミューゼである。

  香りの歴史は紀元前4500年、エジプトの時代にまで遡る。古く昔、香水の原点をたどれば、宗教的儀式の重要な役割を担ったものであり、医薬品の1部であったという。

  聖書の中に香油のことが時々語られる。たとえば東方から3人の博士がイエス・キリストの生誕を祝って捧げたものは黄金、ミルラ(没薬)そしてアンサンス(乳香)の3品であった。古代にはこれらは高価で崇高な品の代表であり、世紀にわたり香料は神秘的、又美的なものである同時に医薬品として使用され貴重なものであった。

  16世紀の中頃、カトリーヌ・メデイシスは風変わりな装飾品や高価で珍しいものを好んだが、オリエントから取り寄せる香料は余りに高いのでうんざりしていた。そんな時、フランスの地中海沿岸、プロヴァンスには素晴らしい香りの花がひそかに咲いていることを聞いた。フィレンツエの学者、トンバレリイに命じ、彼の技術により、その花びらから貴重なエッセンスを取り出させた。

  グラースは当時、皮なめし職人の町として有名であったが職人は皮の匂いを消す為に、この地方の自然なエッセンスを使用していた。画家フラゴナールはこの町の皮職人の息子であった。

  17,18世紀、ヴェルサイユのルイ王朝時代、フランス独自の文化が形成されて行くとき香水も発達していった。王侯貴族の間で大変に重宝がられた香水は単に香りを楽しむだけではなく、医薬の余り発達していなかった時代には菌を防ぐ為であり、又コルセットで体を締め付ける過ぎる為、気を失う貴婦人の着付け薬としても用いられ、塩、お酢に香料を混ぜたものをスポンジに含ませて嗅がせた。当時は特権階級の人々の生活の必需品であった。

  18世紀頃、グラースに新しい香料の商業組合が生まれ、香水が皮職人に代わってこの町の産業となっていく。プロヴァンスの花は神の恵み溢れる小さな町に大きな豊かさをもたらし、この地方の魅惑を作り出した。工場と言う言葉が詩的な美しいイメージとなる世界の唯一の町である。

エッセンスの採り方には3つの方法がある。
  1. 温吸収法=香りを吸い込むラードを作り、花を70度位の温度でラードと混ぜて1日中、熱する 。その後ラードを蒸発させて香りを抽出する。
  2. 冷水法=熱に弱い花、たとえばジャスミンとかチュベルローズなどに適応される。3ヶ月くらいラードの上に乗せて香りをラードの中に吸い込ませる。その後は1)に同じ、ラードを蒸発させ香りを抽出する。特にジャスミンは大変繊細で、香りが逃げないよう摘むときは夜明け前に手で摘む。
  3. 蒸留法=最も一般的な方法である。代表的なバラなど、又スパイスを採るとき等にも使われる方法である。花と水を蒸留し、この蒸気を冷たい水の中を通し、油の容器の中に入れる。水と油は分離するので、分かれるとき香りは油の中に入る。後は1)に同じ。ローズ・ウオーター
  エッセンスとして使われるグラースの代表的な花・植物はバラ、オレンジの花、ミモザ、ジャスミン、ラヴェンダー、すみれの葉、チュベルローズ、ジェネなどである。

  1リットルのエッセンスを採るのにラベンダーは300kg、バラは700kg、ジャスミンでは1000kgの花を必要とする。

  現在の香水はこの天然香料と合成化学薬品の大体50%づつの割合の混合で作られる。因みに1920年代から合成化学薬品が使用されるようになるのだが“シャネルの5番”は100%合成品で作られた当時としては新しいタイプの香水であった。

  “調合師のオルガン”と呼ばれる棚はは19世紀のもので300本のエッセンスが置かれている。この調合師のノートは香りの持つ特徴を3つに分類する。
  1. トップ・ノート=揮発性、瞬間に鼻に来る匂いである。
  2. ミドル・ノート=花(ジャスミン、バラ、ユリなど)
  3. ラスト・ノート=バニラ、スク、スパイスなど、何時までも香りの残るもの。
大体、調合師は1000本のノートを使い、一つの香水に最低20の香りを混合する。

  尚、香水の定義として、香水という場合はアルコール、蒸留水とオイルの中に20%以上の香料を含むもの、オー・ド・パッファンの場合は15%、オー・ド・トワレは10%、オーデコロンは5%となっている。

  容器は香料の状態によりいろいろなタイプがある。クリーム状のもの、液体上香りの油のもの、乳香、線香のように固形物を入れるもの等。陶器は光から香料を守る。フラゴナールは昔ながらのアルミ容器を使っている。5年から10年位保存できる。唯、古くなると香りが変わり、染みになる恐れがある。2,3年過ぎたものは肌に直接つけないほうがよい。

  フラゴナールでは2003年から、新しい試みとしてアロマテラピーの講座が開設された。エッセンシャルオイルを使った美容と健康の為の講座である。現代医学だけでは対応できないことの多いお肌と体の健康をエッセンシャルオイルを使って自分で管理してみては如何?

  私たちパリのガイドは、日本からの訪問者にフランスの文化を紹介するのが大切な仕事、ガイド協会はいつもいろいろな分野に亙り、文化の研究・勉強会を設けている。
  そこで今回はフラゴナール博物館の香水に関する話しを伺い勉強させていただいた。博物館に展示されている美しい芸術的容器に魅せられながら、その中に入れられていた香水は甘い香りで人を魅惑するだけでなく乳香、お香のように心静め、瞑想を誘う役割も担う一方、又医薬品としても大変貴重なものであること、薬は時として毒薬ともなること等、再認識させていただいた。素晴らしいひと時を過ごさせていただき、貴重な時間を割いて丁寧にわかりやすく説明をしてくださった日本セクション担当責任者、横内聡子さんに感謝申し上げる。


*Musee du Parfun
9,rue Scrive 75009 Paris
最寄り駅・メトロ=オペラ

(開館日)
夏季、毎日オープン(09;00〜18:00)日曜日(09:30〜16:00)
冬季、日曜休館日
入場無料

*アロマテラピー入門講座
毎週木曜日(10:00〜12:00)
予約担当:さとこ
TEL.00-33-(0)1 47 42 04 56
E-Mail:satoko@fragonard.com
申し込み締め切り:火曜日の18時まで


森 峰子
>>プロフィール


フラゴナール入口


エジプト時代の容器


カルダゴ時代の容器


ギリシャ時代の容器


香炉─18世紀


香水容器─19世紀


香水容器─18世紀


香水容器─18世紀


エッセンスの採り方 冷水法


エッセンスの採り方 蒸留法


調合師のオルガン


エッセンスを採るフランスの植物
ジャスミン、バラ、ミモザ、すみれ、エニシダ、月下香、オレンジの花


エッセンスを採る日本の植物
しょうが、金木犀


勉強会





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