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■凱旋門・斜めの美





  凱旋門のあるエトワール広場に面して日本の伝統文化と芸術を紹介する展示会館があり、多くのフランス人に喜ばれている。長年フランスに暮らす日本人にとっても、最高水準の祖国の文化や芸術に接すると、異国にいるからこその稀有の感動がある。

  冬のある日、館長に頼み込んで特別に扉窓を開けてもらい凱旋門を撮らしてもらった。モナリザに典型的だが、<斜の美>と言うものがある。この展示会館から見る凱旋門の<斜の美>は格別で、いつかカメラに収めたいといつも思っていた。静かなサロンの扉窓を開けると冬の冷気と車や人の喧騒が一気に室内に入り込んでくる。そして、堂々たる凱旋門が眼の中に飛び込んできた。この角度の凱旋門の姿はやっぱり特別に美しい。真正面から見るより多様な面を見せて動きを感じさせるのだ。しかも、勝利の門を飾る数多くの彫刻群の中で最も芸術性のある<ラ・マルセイエーズ>がカメラの照準にぴったりと入ってくる。<人間はみな自由であり平等である>というフランス大革命の理想を護るべく、勝利の女神に導かれて国境へと進軍する人々をフランソワ・リュードが躍動感を持って彫ったものだ。新しい国作りの揺籃期に大革命が産んだ共和国は、国の外からも内からも激しい攻撃にさらされていた。どう転ぶか分からない状況の中で、安定を求めた新興ブルジョワジーに支持されて登場したのがナポレオン・ボナパルトであった。そのナポレオンが軍事的勝利を記念して建造させた凱旋門。静かなサロンから眺めると、200年前にはパリの西はずれであったとは想像もつかないほどの車と人の多さである。パリの歴史的モニュメントのスターである凱旋門は、文字通りエトワール(スター)広場のど真ん中で今でも動ずることなく君臨している。会館の庭にある二本の黒いマロニエの木がすっかり枯葉を落とし、白い凱旋門を引き立たせている。<緑葉のない季節が絵になる>とある日本人画家が言っていたが、<写真にもなる>ようである。

  現在、凱旋門は長期的な修復工事に入っているが、それでもエレベーターや階段を使って登ることができる。50メートルの高みから見えるパリは雄大で白く輝いている。だからツーリストは誰でも思わず<Vサイン>で写真を撮りたくなるようだ。そんな時は、<斜の構え>で写真を撮らしてもらうのが良いだろう。
(浜田達郎)



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